お台場、2年ぶり。生吉は音楽ガッタスの日本青年館以来。
開場と同時にチケットを差し出し、白い布をまわりこんで目を上げるとそこに吉澤がいた。
あ、と思って身動きできずにいると係員が「立ち止まらないでください」と言った。
そこに吉澤がいたと言っても数十メートルも先の、柵で仕切られたあちら側、すなわちフットサルコートでメンバーと練習していただけのこと。握手会のように目の前にいたわけでもなんでもない。なのに、俺は一瞬、「無」になった。身体が持ち上げられて上下感覚がなくなるような、すべての細胞が一瞬でバラバラになるような、それでいて頭をガツンと殴られたような、無。
髪をなびかせてボールを蹴る吉澤を見た瞬間に。
席につく。さっきの感覚は何だったのかと考える。
死ぬときってあんな感じかもなー。
吉澤から一瞬も目を離したくないから手探りで足元に置いたカバンから水とタオルを出す。手帳か何かがカバンから落ちたようだが無視。帰るまでに拾うからそこで待っててくれ。
パスまわしから、シュート練習。シュート位置に移動するためにフツーに歩いていた吉澤が、途中で、歩いたカタチのまま足をぐっととめて、屈伸風に膝と足首をぐりぐりしたのがなんかかわいかった。
でも、だんだんかわいいとか思えなくなってくるんだ。この日、吉澤はやたらと右足首を気にしてたんだよね。このときのシュート練習も(俺が見た範囲では)紺野にすべてとめられていた。あんまり強く蹴れないみたいだった。シュートじゃなくてパスみたいだった。
風はフラッグをそっともちあげる程度に吹いている。日差しは強い。
吉澤の髪がなびく。俺は両隣をデブに囲まれている。
なんだろうこのゆでた空豆のニオイは。俺か奴等か両方か。
開会式のあと、第一試合ホテルニューオータニVSエマルジョンズ。
なんかねー、フツーにほんと「働く女性たち」って感じで。
こういう人たちと大会するのうれしいなと思った。
ガッタスも「働く女性」ってくくりなわけじゃん。「芸能人」ってくくりよりカッコいい。
試合中、ふと、選手控え室のほうを見ると、吉、石、是、里が青いベンチに座って試合を見てる。
うわー、いい眺めだなぁ、え?あ?もうひとりいる。
ガッタスTを着て、下は薄い色のジーンズで、首からIDカード下げてる、輝くデコの女の子。
みうなじゃん!!わわわ、しかもあれTシャツじゃないユニフォームだよ4て書いてある4て!
見た感じ、すっきりしてる。いい表情してた。だからすごいうれしくなった。デコも日差しを受けてピカピカで。
第二試合ガッタスVSシティリビング。
試合前に数分間、ウォームアップあるんだけど、このときのシュート練習でも吉澤はゴールを割れず。足首ぐりぐりをわりとしてるような気がする。なんか気になってくる。
スタメンは吉、石、是、里、紺。
自分的にいちばん見てて落ち着くメンバーだ。
みうなも控え室前で見てる。すごく真剣な顔だ。
試合はいしかーさんがゴールしてから怒涛のゴールラッシュで8−1だっけ?爆勝。
是永ハット。後半、吉澤さん出ず。清水さんゴールで盛り上がる。
吉澤はゴールなかったけど、前半2分ぐらいのとこでライン際で敵を背にボールをキープ、じわじわっと姿勢を変えてパスを出すプレーがプロっぽいじれったいでした。
休憩、外にでる。
番搾を買って飲む。ベンチ前の大画面にアラジン。
里田、女子のセンターなんだすげー。
俺里田は好きだけど、このユニットちょっと苦手でさ。
俺バカ嫌いだもん。バカに「お」をつけるのも嫌い。「日本のサラリーマン」てひとまとめにされるのが嫌い。でもこの歌を歌ってるやつらを見ると、確かになんか心が動く。元気もらっちゃいそうになる。それがくやしい。
そして、ガッタスVSエマルジョンズ。
相変わらず試合前のシュート練習では流すようなボールばかりで決まらない。
もしかしてそういう練習なのだろうか。だったらいいんだけど。でもみんな決めてるし。
足首ぐりぐりしてるしなぁ。実況席のテントのポールにつかまって、ボールの上に右足で乗ろうとしてみたりしている。何かのバランスを探っているのだろうか。
試合が始まる。
ふと気づくと審判がイケメン。とても心配になる。
いや、吉澤さんは顔なんかで選んだりしない。でも、審判資格を持つ者として何か質問があったりするかもしれない、吉澤さんは熱心だから。そんで、じゃあそれは今度詳しく、ごはんでも食べながら、なんてことになったら吉澤さんは「や、ごはんは関係ないです」ときっぱり切り反してくれるだろうか・・・・・などと勝手にやきもきしてたら、いしよしゴールキターーーーーーーーーー
石川さんが落ち着いてたよー(涙)
石川さんってわりとあわてて蹴るとこあるけど、このときは違った。
しっかり見て、まんなからへんからよっすぃに愛のスルーパス!
それをよしざーさんがバチーーーンと蹴る!
ボールがきれーに転がってゴォオオオオオル!
コート上におっきい逆「く」の字が描かれた感じ。ビリヤード的気持ちよさ。
でもね、ヨロコビ表現はあっさりめ。肩組んだりとかなかったなー。
そんで前半途中で吉澤ひっこむ。
頭にかちわり氷みたいの載せて、足をガッと開いて戦況を見つめます。
サイドチェンジ。
白くて正方形ぽいタオルを手にして作戦会議。
吉澤さん、顔の汗をちょんちょんってふく。
なんつーの、小首かしげて、顔の際のところを。
それすごい女のコぽいなぁと思う。そのギャップ。その角度。
よしざーさんの首はとてもいい仕事をしている。みんな顔のことばかり注目しているが
首あっての顔なことを忘れてはならないと思う。吉澤さんの首に助演女優賞をあげたい。
後半。1−1同点のまま時間が過ぎる。やばい空気が漂い始める。
悪い時のガッタスの空気。が、あと30秒ってところで是永のシュートが決まる!
吉澤も飛び上がって喜ぶ。そのまま勝利。
休憩。
こんどはすかいらーくカフェで生ビールとからあげを注文。
ここからコート見えるんだよね。厚いガラスがあるから声とか音は聞こえないんだけど。
出たり入ったりしてるうちにエマルジョンズとシティリビングの試合が始まった。
店内で耳を澄ますといろんな声が聞こえてくる。
「里田まい出るの?ねぇ里田まいだって」
家族連れのおかーさんがヲタ横断幕を見て言った。
「後半出るんじゃないか?」
旦那が言う。でもこの試合はガッタスじゃないっす。後半になっても里田出ないっす。
あの家族、ガッタスの試合まで待てたかなぁ。
そんなこんなでついに最後の試合ガッタスVSホテルニューオータニ。
選手入場。。。あれ?背番号6がいる!
袖を肩までまくって、なまウデ全開。元気よく笑って藤本美貴さん登場。
ソックスは膝下で、吉澤と対照的に肌を日差しに晒してる。
ヲタ盛り上がる。さっそく藤本コール。
確か出場予定者には載ってなかったはず。
メンバーも「びっくりしたでしょ?」って言いたげな顔。
試合前のシュート練習。
ミキティ、力強いボール。ヲタ大きなリアクション。
吉澤は、やっぱ足が気になるらしく、片方の足首を後ろで持つストレッチあるじゃん?
あれをちょこちょこやってた。シュート練習では初めてシュートが決まった。
いい空気で円陣。肩を組む。
オレンジ色の背中が並ぶ。ちょうど正面に吉澤の背中が見えた。
背番号10の左に9、右に6。なんか、勝手にこみ上げてきた。
石川、吉澤、藤本。
この3人の今まで、これから。肩を組むこと。同じユニフォーム。
風が少し強くなる。今はすぐに過去になる。この夏の、この一日。
試合開始。
ミキティ、惜しいシュートが何回かあったあと、ゴール!
紺野がセンターサークルまで出てきて藤本を祝福。
藤本がいるとヲタのノリも少し変わる。藤本があっさり敵にボールをパスしちゃったりのミスをしたら「えええええええっ」って突っ込みを遠慮なく入れる。そうしてもいいと思える、思わせてくれる藤本美貴の魅力ってなんなんだろね。
吉澤もなんだかんだ言ってゴールを決めた。バー直撃の惜しいシュートもあった。
5−0で勝利。
この試合が終わったときピッチにいたのは、吉、石、里、是、紺。
最初の試合のスタメンと同じだった。
8月10日のガッタスカップはこの5人で始まり、この5人で終わった。
閉会式。
お食事券10万円もらったあと、キャプテンの挨拶。
ガッタスが初めて優勝を経験したお台場で、優勝でしめくくれてうれしい、と。
そして「結局おいしいところをもっていくのはここにいるひとなんですけども」みたいなことを言って(たぶん最後の試合で2人がきっちりゴールを決めたことか)そんで
「遅れてきた副キャプテンからもひとこと」と藤本にふる。
藤本がうれしそーにマイクの前に立った。
自分の後方、背中ナナメ上をビシッと腕全体で指し示して「東京テレポート駅から走ってきました」と言った。
でも東京テレポート駅はそっちじゃなくておもっきし反対側だった。
でもなんかそれもミキティぽいなぁと思った。
吉澤さんはフットサルのときはいつも冷静だし試合中は喜怒哀楽をあまり見せないからよくわからないけど少し表情に乏しい感じがした。足、調子悪かったのかなと思う。
ベンチにいるとき、飛び上がって喜んだのは、2つめの試合での終了間際の是ティのゴールのときだけだったと思う。清水さんがゴール決めて戻ってきたときの前のめりのハイタッチや、その後の試合でゴール前の位置を指示してあげたりしてたこととか、キャプテンらしさは随所に感じられたが。
退場のとき、「よっすぃ、ありがとー」と声に出して言ってみた。
もちろん俺の声は彼女に届く前に最前のやつらのハゲ頭らへんに落下して頭皮の刺激の一助になる運命なのだが、声に出して言うのと思ってるだけなのは全然ちがくて、言ってみたら目から水が出そうになった。なんでかっていうのは個人的な話なので省略さ。